ある日とつぜん、パートナーに離婚したいと言われたら驚いてしまうものです。
財産分割の中には、実は公的年金記録も含まれています。
例えば、夫が会社員で働いて、妻が専業主婦だった場合、夫にだけ厚生年金の加入記録がたまっていきます。
会社で働いて保険料を納付してきたのは夫ですが、妻は内助の功でこれまで支えてきたので、離婚時には分割して分け与えるのが公平ですよね。
それが「年金分割」という制度の趣旨です。
今回は、年金分割の制度についてご紹介いたします。
まったくもう、あいつは何もわかってないな!
ナビ男さん、そんなに怒ってどうしたんですか。
いや~、うちの嫁とケンカになっちゃって。
「離婚して、あんたの年金半分奪ってやる!」って言われたんですよ。
そんなことできるわけないですよね。
いえいえ、ナビ男さん。離婚したときに相手の年金をもらうことはできますよ。
「年金分割」と言う公的な制度がありますから。
えーっ!
じゃあ、嫁のいうとおり、私の年金は半分持っていかれるんですか。
それはちょっと違います。
よく「年金が半分もらえる」と誤解している方も多いのですけど、 正確には婚姻期間中の、「厚生年金の報酬比例部分」が分割の対象になります。
分割されるのは厚生年金保険・共済年金部分
かつ
婚姻期間中のみ
つまり、実際に分割されるのは、年金の半額ではなくもっと少ないということかな?
そのとおりです。
ご存知のとおり、年金にはいくつかの種類があります。
引用:楽天生命
https://www.rakuten-life.co.jp/learn/article/pension/
この図でいうと、1階部分の国民年金は分割されません。
全員が等しく加入している部分ですから。
分割されるのは、2階の厚生年金の部分です。
会社員として、保険料を払った部分が対象になるのか。
3階部分にあたる、厚生年金基金や、確定給付企業年金、確定拠出年金はどうなるんだい?
そこは年金分割の対象とはなりません。
それじゃあ、国民年金にしか入っていない自営業者は?
ずっと自営業者で、厚生年金の記録がない方は、年金分割の対象にはなりません。
なるほど。
私たちの年代は、夫が会社員で、妻が専業主婦というケースが結構多いんだよ。
その場合はどうなるんだい?
その場合は夫のほうに年金保険料を納めた実績が貯まっていきますよね。
もし離婚するときには、夫婦でその実績を分け合うことができます。
正直言って、私が長年働いて保険料を払ったのに、嫁に分けないといけないのはしゃくぜんとしないなぁ。
夫婦が結婚している間に築いた財産は、夫婦2人の共有財産として扱われるんですよ。
それは年金保険料の記録も、例外ではありません。
ナビ男さんが会社員として働けたのは、奥さんの内助の功があってこそ。
だから「年金の権利も平等に分け合うべき」という考え方なのです。
そうか。
それは仕方がないね。
私の友達は、奥さんのほうがバリバリ稼いでいるけど、その場合も、年金を分け与えないといけないのかい?
性別は関係なく、給料が多かったほうが相手に分ける形になります。
もし奥さんのほうが高収入なら「妻の年金の一部」が夫に分けられることになります。
夫が国民年金しか入っていなくて、妻が会社員の場合は、妻の厚生年金が夫に分割されるということかい?
ええ、そういうことになります。
年金分割は、性別関係なく性別が多いほうから少ないほうへ分割される
ふむ。
私の場合は、どれくらい嫁にとられるのかな……。
そうですね。
分割方法にもよっても異なります。
年金分割には、「合意分割」と「3号分割」の2つの方法があります。
合意分割は、夫婦の合意が必要です。
50%を上限にして、年金を分割する割合を決めることができます。
これを按分割合と言います。
按分割合は基本的に話し合いで決めますが、同意を得られない場合は、家庭裁判所での調停や審判が必要となります。
按分割合の決定後、年金事務所に年金分割を申請すると、年金額が改定されます。
合意分割は話し合いで分割の割合を決める
按分割合は最大50%
双方の合意が必要
なるほど。
50%を上限に、話し合って決めることができるんだね。
それなら、私は絶対に不利な条件では合意しないぞ。
でも、ナビ男さんの奥さんはずっと専業主婦……、つまり第3号被保険者ですよね。
そうすると、相手の合意がなくても、1人で請求できるのです。
これが「3号分割」とよばれるものです。
3号分割による按分割合は一律で50%となっています。
ということは、年金記録を強制的に半分持っていかれるということかい?
そうですね。
3号分割は、夫婦の一方から請求されれば、自動的に年金分割が行われます。
ただ、これは2008年4月から始まった制度なので、それ以降の年金記録だけが対象になります
2008年3月以前の婚姻期間については、合意分割によって行う必要があります。
なるほど。
私は学生結婚して、22歳から60歳まで働いていたんだよ。
その間ずっと妻は専業主婦だった。
もし今離婚すると年金はどうなるんだろう。
ナビ男さんの厚生年金の納付実績は、すべて婚姻期間中のものですから、全期間が分割の対象になります。
例えば、国民年金は6万円、厚生年金が8万円だったとします。
国民年金の額は変わりません。
厚生年金は最大で50%、つまり4万円が奥さんに移るというイメージですね。
(改定前)
夫:老齢基礎年金6万円、厚生年金8万円
妻:老齢基礎年金6万円、厚生年金0円
(改定後)
夫:老齢基礎年金6万円、厚生年金4万円
妻:老齢基礎年金6万円、厚生年金4万円
離婚後、例えナビ男さんが先に亡くなったとしても、奥さんは分割された年金をずっともらうことができます。
夫婦で20万円もらえる計算だったが、一人で10万円になるのか……。
私も独り身になるなら、年金は少しでも多いほうがいいんだが、年金分割は拒否できるのかい?
年金分割は法律で定められた制度ですので、相手が希望すれば基本的に拒否できません。
ただ、相手が障害年金を受給している場合は、3号分割は利用できないとされています。
この場合も、合意分割はできます。
うーん、、私は障害年金の受給はしていないし……。
なんとか年金分割を回避する方法はないのだろうか?
そうですね。
年金分割には請求期限があります。
この期限が切れたら分割することはできません。
請求期限は、原則として離婚をした日の翌日から2年までとなります。
離婚しても、2年間請求させなければいいんだね。
そうですけど、あまり現実的ではありませんね。
老後の資金計画を立てるときには、基本的に夫婦そろった生活を想定しているはずです。
離婚してしまうと、夫婦のどちらもお金が足りなくなって、困窮してしまうというデータもあるのです。
ですから、まだ離婚前であれば、関係修復に力を入れるのが一番だと思います。
うーん。
しかたがない。ここは私が大人になって、ケンカ中の妻に謝るとしよう。
ええ、それがいいと思いますよ。
奥さんの好きなケーキでも買っていってくださいね。
ここで、今回のまとめです。
離婚分割は、婚姻期間中の厚生年金記録が対象になります
性別は関係なく、お給料の高いほうから低いほうへ分割されます
年金分割は基本的に拒否することができません
離婚から2年を経過すると請求することができなくなります
はい、今回の内容はいかがだったでしょうか?
離婚したときに、年金が多いほうから少ないほうへ分け与える年金分割についてご紹介いたしました。
年金が足りない方には救いになる制度ですが、離婚後困窮してしまう方も多いというデータもあります。
離婚については、今後の生活のことを考えて慎重に決めたいものですね。