「まさか私のへそくりが、夫の相続税の対象になるなんて……。
長年コツコツと生活費をやりくりして貯金している方は多いと思います。
その額があまりに大きいと、ある日とつぜん税務調査が入って、追徴課税をとられることがあるようです。
実際に税務調査の対象となるのは相続税を納税した人の約3割で、そこで申告漏れを指摘される人は8割以上となっています。
そこで今回は、「へそくり」が課税されない方法をご紹介いたします。

夫が亡くなってから1年……。
長年の夢だったスナックを開いたわよ~!

開店おめでとうございます!
早速飲みにきましたよ。

ありがとうね。
でも開店早々に困ったことがあったのよ。

どうしたんですか?

急に税務署の人がきてね、「開業のためのお金は誰からもらったのですか?」って聞かれたのよ。

たしか、ナビ子さんはずっと専業主婦でしたよね?

実は夫に内緒で、長年かけてへそくりを1000万円くらいためていたの。

すごいですね~!
家計のやりくりをがんばったんですね。

そうなのよ~。
それを正直に話したんだけど「ご主人から1000万円を一括で贈与されたとみなします。追徴課税をお支払いください」って言われちゃったの~。

それは大変でしたね。
ご主人が亡くなったときに、へそくりは申告しなかったんですか?

しないわよ~。
だって、私が努力して生活を切りつめて貯めたお金よ?
どうして贈与税を払わないといけないの?

お気持ちよくわかります

私のともだちもみ~んなへそくりをしているのに……。

そうですね。
ネオファスト生命保険のデータでは、平均のへそくり額は421.1万円だったそうです。
そのうち1000万円以上へそくりをためている人は全体の15%いると報告されています。
みなさん結構へそくりしていますよね。
1000万円以上の人が15%

みんな結構ためこんでるわよねぇ。
でも、どうしてそれが問題になるのかしら?

日本の税法では、「お金の出所」が重視されるのです。
ナビ子さんは、ご主人から渡された生活費をやりくりして貯金していたのですよね。
その場合、へそくりはご主人の収入と紐づいているため、「夫の資産」とみなされるのです。

私名義の貯金でもダメなのかしら?

はい。
『名義預金』という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
名義こそ妻ですが、夫の収入が原資となっている預金口座のことです。

あらっ、そうなのね。
そういう意味だとうちはまさに名義預金だったわ。

そういうときは、ご主人が亡くなったときに、へそくりも含めて相続の対象にしていないといけないんですけど、申告漏れが多いそうですよ。
それが後から見つかって、追加の相続税や、延滞税、加算税などのペナルティが課せられることがあるのです。

忘れていたというか、そもそも、へそくりは私のものだと思っていたから、申告なんてまるで頭になかったわ~。
お客さんやお友だちにも教えてあげたいから、何か対策を教えてくれない?

わかりました。
対策の一つ目は「贈与」です。
「贈与」

ご主人がご健在な場合は、思いきってへそくりの存在を打ち明けましょう。
そのお金をいったん夫の口座に戻した上で、毎年110万円以下の金額で、お小遣いとして贈与してもらえばいいのです。

どうして110万円なの?

まず、大前提として、夫婦でも財産をあげたりもらったりすると贈与税がかかる場合があります。
そのボーダーラインが110万円です。

その金額以下だったら贈与税はかからないのね?

はい。
そうです。毎年110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
「110万円」以下なら贈与税はかからない

贈与したい金額が大きい場合は、複数年に分けることで、非課税の扱いとなります。
これを暦年贈与と言います。
暦年贈与は1月1日から12月31日までの1年間で計算されます。
総額が110万円以内の場合には、贈与税はかからず申告も不要です。
贈与税の基礎控除は110万円
1月1日から12月31日までの1年間で算定
110万円以内の場合には、贈与税はかからず申告も不要

夫から毎月手渡しで20万円の生活費をもらっていたけど、それは贈与にはならないわよね?

ええ。
生活費や教育費に充てるためのお金で、通常必要と認められるものは贈与税の対象とはなりません。
あくまで「110万円を超えるもの」が対象となります。

そういえば、結婚20周年のとき、夫が200万円のダイヤモンドの指輪をくれたの。
それって贈与税の対象になるのかしら。

そうですね。
その場合は、110万円を超えた90万円が贈与税の対象になり、申告しなければなりません。

そうなのね、知らなかったわ。
こっそりへそくりするんじゃなくて、毎年夫から、110万円ずつお小遣いとして渡してもらえばよかったのね。

そうですね。
その場合も、できれば「贈与契約書」を締結し、銀行振込などの記録が残る方法で贈与を行うようにすると良いですよ。
贈与は契約書を結んで行う

家族で契約書なんて、水くさいんじゃない?

そうですね。
贈与は口約束でも成立しますが、後から税務署に説明を求められたときに、証拠が残っているほうが安心できますよ。

たしかにそうねえ。それって公的な文書なの?
役所に提出するの?

いいえ。
役所に提出する必要はありません。
パソコンなどで同じものを2通作って、夫婦それぞれで保管しておけば大丈夫です。
必要な項目は「誰が誰に贈与するのか」「贈与を実行する年月日」「いくら贈与するのか」「贈与の方法」です。
誰が誰に贈与するのか
贈与を実行する年月日
いくら贈与するのか
贈与の方法(銀行振り込みなど)

夫婦双方の自筆の署名と押印を忘れないようにしてください。
こうすれば、税務署がきても胸を張って「私の財産です」と言えますよ。

なるほどね。
でも、友達の中には「夫にへそくりのことを話したら、取り上げられちゃうから嫌だ」っていう人もいると思うわ。
そういう人はどうしたらいいのかしら。

へそくりの存在をご主人に明かすことができなかったり、相談する前にお相手が亡くなってしまうことはあります。
そんなときは、ご主人が亡くなった後で、へそくりを相続財産としてきちんと申告しましょう。
夫が亡くなったら、へそくりも含めて財産として申告する

でも、相続税が高くなるでしょう?

大丈夫です。
相続税の計算には「配偶者の税額の軽減」という制度がありますから。
夫婦間の相続では、最低でも1億6千万円までは相続税がかからないようになっています。
多くの配偶者はへそくりを税務署に隠さなくても、相続税はかからない可能性が高いのですよ。

へそくりが税務調査で見つかった場合には、延滞税や加算税がかかるものね。
それって無駄なお金だから、最初から申告しておいた方が得策ね。

そうですね。
ちゃんと対策していれば、税務調査は怖くありません。
ここで今回のまとめです。
余ったお金は、へそくりではなく、お小遣いとしてもらいましょう
毎年110万円以下なら贈与税はかかりません
へそくりも含めて相続税の対象として申告しましょう

はい、今回の内容はいかがだったでしょうか?
せっかく貯めたへそくりが減らないように、きちんと対策してくださいね。